記事作成日:2024年2月1日

※この体験談は、執筆者の先生ご自身の思いや感情を、できる限りそのまま表現いただき、私たちもそれを尊重いたしております。表現、用語などは誤解のないように配慮いただいておりますが、お気づきの点がありましたらご意見いただければ幸いです。

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京都第一赤十字病院 呼吸器内科 塩津 伸介
卒後23年目 
呼吸器内科医
専門は肺癌

私は2001年に大学を卒業し、大学附属病院や関連病院で勤務したのち2007年より京都第一赤十字病院に所属している呼吸器内科医です。
個人的背景としては、腎臓内科医の妻と共働きで13歳、10歳の娘がいます。
本稿のテーマである育児休業については、自分で取得した経験はなく、家庭では妻が取得し、職場で後輩の女性医師が取得した経験があります。

今回、上司、または夫としての関わりというサブテーマをいただき、医師会の方から、上司の無理解で休暇(参観日など)が取りにくい、子育て中によくある突発的なイベント(発熱など)の時も仕事を休みにくいなど、様々な事例を教えていただきました。
しかし個人的にはそのような思いを抱いた経験はありません。
2007年に私が第一日赤に赴任した時のメンバーは男女比2:3で、上司には女性医師が二人おられました。いずれの先生も夫は医師で、共働きで子育て中あるいは経験者でしたので、数年して長女が生まれた後も、発熱で早めに保育園に迎えに行かなければいけないときや、病児保育に送るため出勤が遅れるといったことにも、こころよく柔軟に対応してもらっていました。
そのようなわけで、自分自身としては困難な状況に難渋したといった経験はなく自身の体験談としてとりとめのない話になりますが、参考になりましたら幸いです。

1上司としての関わり

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これまで当院で育休取得された医師は、専攻医や常勤医師になったばかりの経験年数の方でした。それを前提として、病院内でメンバーが育休を取る場合、業務調整を行う内容として問題になるのは、入院主治医、オンコールや当直、外来出番ということになります。
入院主治医に関しては、当科では基本的に専攻医が入院患者を担当する場合、指導医としてスタッフも担当医に入っているため、専攻医の主治医が育休となった場合、指導医が主治医として引き続き担当します。スタッフ枠の指導医が育休になる場合も、若手の場合かかりつけ患者がそれほど多いわけではないため他の指導医が代わりに担当することで対応しています。
当科は救急外来経由の入院患者割合が多く、オンコールや当直中に対応した医師が主治医になることが多いため、オンコールの担い手が減ることで一人当たりの入院負担が増加しますが、今までのところはスタッフがオンコールを担当する頻度を増やすなどして対応しています。

外来出番については、当科は毎日初診、再診の2診に加え、曜日により専攻医や若手の初診+再診外来が3診目として開かれるという体制ですが、育休取得される先生の外来は3診目であることがほとんどなので、1診休診としても患者さんは2診で吸収できるようになっていました。また実際には起こっておりませんが、再診の人数が多い先生が育休になった場合は大学に臨時の派遣をお願いするか、外来縮小をするなど体制を変えないといけないかもしれません。
いずれにせよ残されたメンバーに負荷がかかることは事実ですし、若手に聞いてみても当然ながら忙しくなると言っています。
よい解決策はすぐには思い浮かびませんが、一つは育休期間を目安でもよいので予め決めてもらっていると、人員補充や体制変更など行いやすくなると思います。
もちろん一人目で初めての育児で大変なときに予定を立てるのは難しいですが、期間限定だと代理含めいろいろとやりやすいことが多いです。このような調整を行う上では、自分のプライベートをどの程度周囲に開示するのかという問題はありますが、ある程度個人的事情をお互いに理解しておくことが望ましいと思います。

また育休に限らず、育児中は子どもの発熱などいつ保育園から呼びだしが来るかわかりませんし、子育てに限らず想定外の事態は誰の身にも発生しますが、当科では適宜残った人員で抜けた穴をカバーしあうことが当然であるという風土はあるように思います。上司が共働き経験者であるということはその雰囲気に大きく影響しているように感じます。

2夫として

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私個人は育休を取得した経験はありませんが、妻は長女、次女の時に各々育休を取っています。それをはたから見ていた印象は育休一つ取るだけでも大変やなということでした。
休む間の業務調整から出口戦略としての保活(保育園が決まらないと仕事に復帰できない)に至るまでこちらの想像をはるかに超えて多くの変数を盛り込んで戦略を練っていました。
妻の育休中に自分として気を付けていたことは、できるだけ早く帰るくらいのことしかありませんでしたが、キャリア中断の切実さは、ともすれば男性が漫然と仕事を続けていれば経験年数が増えてベテランになっていくのと比較して全く違う感じでした。

現状では育休は女性が取るケースが多いですが、それにより女性がキャリア中断を余儀なくされているという事情を男性はあまり理解していないように思うため、仕事を継続している夫はそこに十分配慮することが必要だと自戒も込めて思います。

また、法律上育休取得の期間は生後1年、場合により2年までだそうですが、育児はそれよりずっと長く続くものです。何かの記事で読みましたが、育児とは分担するものではなく、共有するもので、人生において子どもとかかわることができる限りある時間を共有するために育休があるということが書いてありました。男性が育児にかかわるうえでの新たな視点だと感じましたし、またそれを実現するためには、男性医師についても状況に応じた柔軟な勤務調整を可能とする仕組みが大事だなと感じます。

男女共同参画社会とは、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」(男女共同参画社会基本法第2条)と定義されています。
また育休問題に限らず、性差別やジェンダー不平等はイコール「女性問題」と捉えられがちですが、国際社会においては、男性もまた当事者であり問題解決の重要な担い手であるという認識が主流になっています。
2014年にUN Women(国連女性機関)によって始められた”HeForShe”キャンペーンは、男女平等促進のためには男性の関与が不可欠であるとして、男性にその実現に向けた変革の主体となることを促す活動です。

ジェンダー不平等の解決が男性にとっても重要である理由には3つの側面が指摘されています。
一つ目は、少子高齢化による労働力不足に対応するには性別に関係なく、誰もが、仕事も地域や家庭のことも担いながら、しかも全体として生産性を上げていけるような仕組みに変えていくことが必要ですが、急激な環境変化への対応やイノベーションを起こすうえでは、男性だけの同質的集団よりも女性も含めた多様性に富んだ集団のほうが有利です。
二つ目は、長時間労働が当たり前になっている男性中心の労働慣行が女性の社会的活躍を妨げる要因になっており、その解決には男性が態度や行動を変化させる必要があります。
三つ目は、性別役割分業を伴うジェンダー不平等な社会が男性たち自身の生きづらさや生活の質の低さをも生み出しているといわれており、その解決は男性自身にとっても豊かで人間らしい生活を可能とすることに繋がります。

話がだいぶ大きくなりましたが、育休問題についても職場全員がステークホルダーとなり、その解決に向けて努力することは自分たち自身のためでもあると認識することが重要だと感じました。
本稿が何かの参考になりましたら幸いです。

「他人事ではない、男性にとってのジェンダー平等」クオリティ・オブ・ソサエティ 電通総研
「男女共同参画社会って何だろう?」男女共同参画局
「男性にとってのジェンダー平等とは」(視点・論点)NHK解説委員会

これらの論考を参考にしました。

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