記事作成日:2023年12月26日

※この体験談は、執筆者の先生ご自身の思いや感情を、できる限りそのまま表現いただき、私たちもそれを尊重いたしております。表現、用語などは誤解のないように配慮いただいておりますが、お気づきの点がありましたらご意見いただければ幸いです。

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猪鹿蝶
卒後15年目 
産婦人科医(市中病院勤務)

妊娠中の女性にとって分娩はまさに一大イベントです。妊娠中にいろいろ勉強するものですが、怖い情報もたくさん聞くことでしょう。初産婦さんは特に未知の体験でもあり、不安や心配も多くナーバスになっていることでしょう。
しかし、それは女性だけの問題ではなく、男性にとっても同じように一大イベントです。自分の体のことでないため、横に寄り添う大変さもあることでしょうし、家庭によっては生活スタイルが大きく変化するでしょう。女性は妊娠中に「お母さんになることへの実感」をゆっくりはぐくみやすいのに比較して、「お父さんになることへの実感」は分娩日までピンとこない方もおられるかもしれません。
今回は、夫婦ともに医師である2組のご家族のお父さんにご協力いただき、「父になる立場として」分娩前後の経験についてのインタビューを行いました。経腟分娩、帝王切開で「お父さんの動き」はどう違ったのか、子を持つ前後で「父としての自覚」はどう育ったのか、など、経験を教えていただきました。

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1経腟分娩での出産のA家お父さんの場合

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A家お父さん
卒後12年目 
循環器内科医

1人目の分娩時は、私が卒後6年目で大学院(週に1回外勤)の時。院生のため、分娩のための勤務調整は特にしていませんでした。分娩が近くなっても、いつも通りでした(当直は変わってもらっていたかもしれませんが、忘れてしまいました)。分娩誘発を行うことになったので、誘発開始の月曜日から水曜日朝までは付き添っていました。なかなか分娩が進まない中、痛そうにする妻の背中や腰をさすり続け、手の皮がむけてしまいました。結局、私が病室にいる間には産まれず、水曜日の外勤に出かけている間に産まれました。
もともと食事以外の家事は普段からやっていることもあり、妻の入院中も特に困ったことはありませんでした。私自身は育休を取らず、妻が退院してきてからも通常通りの勤務を行いました。大変だったことは、夜間授乳で寝不足である妻の機嫌が悪くなったことでしょうか。
2人目の分娩時、私は卒後9年目であり、市中病院で勤務していました。自分が勤務している病院での分娩を選んだこともあり、勤務調整はほとんど行わずに出産の日を迎えましたが、分娩の立会いはコロナ禍でできませんでした。
妻の入院中は当直を代わってもらい、上の子どもの保育園への送り迎えのためできるだけ早く仕事を終えて帰るようにしていましたが、無理な時は実家にお願いしていました。上の子がお姉さんらしくなったことが印象的でした。
今思うと、1人目の分娩の時に外勤は代わってもらって立ち合えばよかったと思います。分娩誘発をすれば1、2日で産まれると思っていたので、そこまで思い至りませんでした。2人目の分娩時は立ち合いが禁止だっただけにそう思います。

(終)

2予定帝王切開での出産のB家お父さんの場合

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B家お父さん
卒後15年目 
産婦人科医

1人目の分娩時は卒後8年目で市中病院(医局員7人)に勤務していました。帝王切開が決まっていたこともあり、出産前日まで勤務は通常通りでしたが、分娩日は休みを取り、産まれてすぐの手術室から出てきた子どもと面会できました。退院後も育休は取得せず、翌日からいつも通りの勤務に戻りました。
大変だったことは夜間授乳です。基本的に母乳でしたが、ミルクも併用していたため、哺乳瓶を洗ったりミルクを作ったりは、私が担当しました。できるだけ妻と同様に夜間も起きるようにしましたが、次の日も勤務があるので、つらいことも多かったです。
また、子どもが産まれた後は生活・価値観の変化が大きかったです。基本的に子ども中心の生活となり自分の時間はほぼ無くなりました。実際に関わってみてはじめて育児の大変さがわかり、産まれるまでに父親としての心の準備をしておけばよかったと思いました。実家は協力的でしたが、基本は自分たちで行うという覚悟も必要でした。しかし、子どもの成長を見る喜びはとても大きかったです。
2人目の分娩時は卒後13年目で市中病院(医局員3人)に勤務していました。1人目と同様に、帝王切開日のみ休みました。勤務内容も大きい変更はしませんでしたが、妻の入院中、上の子は普段通り保育所に通いますので、その送り迎えのため当直は外してもらいました。1人目の時と違い、精神的にはずいぶん楽で、家族が増える喜びを感じるとともに、上の子がお姉ちゃんとしての成長していくことに驚きました。共働きで父親が育児に参加するには、職場の理解は不可欠だと思いました。家庭の状況などを上司やスタッフにまめに伝えておくことで、理解してもらいやすく、その分働きやすくなると思います。
2回の分娩とも、妊娠経過が順調で予定通りの帝王切開となり、手術当日の休暇とその後1週間当直をはずしてもらうだけで済みました。しかし、緊急帝王切開となった場合は急遽仕事を休んだり、途中で抜けたりする可能性があったので、その場合に備えて状況を説明しておく必要性を感じました。

(終)

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いずれもご夫婦ともに医師のご家族でしたが、やはり経腟分娩と帝王切開では分娩の日が確定しているかどうかという点で、お父さんの準備にも違いがある様でした。筆者は産婦人科のため、立ち合い分娩時のご家族のドラマは様々見てきました。最初の家族のように、昨日まで立ち会っていてくれていたお父さんがいなくなった途端に産まれること、後15分でお父さんが到着するのに待てずに産まれてしまうこと、帝王切開の日を休みにするために調整してもらっていたのに、前日に破水して緊急帝王切開になりお父さんが来れないこと。どれもよくある話です。分娩は大人の都合通りにはならないなと痛感します。もし、立ち合い分娩を強く希望されているご家族は、いざ分娩となった場合に柔軟に対応できるように、準備が必要(主にお父さんの仕事の調整でしょうか)だと思います。分娩誘発も、初産婦さんの場合は1日や2日では終わらないことも多々ありますので。
また、女性に分娩時に思い出を聞くと、とても詳細にそして感情の部分も細かくお話しされるのに対して、今回のように男性に聞くと、感情よりは事実の部分が多く、忘れちゃったという部分もたくさんあるな、と今回のインタビューを通じて思いました。同じ事を体験したはずなのに、やはり男女で心に残る部分に差があるとも思いました。立ち合い分娩ができなかったことなど、女性は後になっても残念な気持ちが大きいですが、男性は仕事の調整などが難しかったりすることも多いようです。家庭の状況にもよりますが、分娩時の立会いを含めて産後も子育てに参加するために、男性も職場に状況を伝え、理解してもらうことが自分も周りも働きやすくするためには必要なようです。
医師同士のカップルに限らず、これからお子さんを考えておられるかた、その周りで支えることになるかたがたの参考になれば幸いです。

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