記事作成日:2023年12月26日

約10か月の妊娠期間を経ていよいよ出産となります。今までお腹の中で大事に育まれたお子様と対面できる日がやってきます。
筆者が産科医の駆け出しの頃、「先生、お産です。」と呼ばれたとき、元気な鳴き声の赤ちゃんとその子の誕生を心待ちにしていた夫婦の笑顔をみると疲れも吹き飛んだものです。分娩というのは飛行機の着陸に似ている気がします。母子ともに無事にLandingできるよう産科医は助産師と共にお手伝いを致します。「バースプラン」に沿った理想のお産にならないかもしれません。しかし、経腟分娩であれ、帝王切開であろうと母子ともに元気でなければ、順調な「スタート」とは言えません。妊娠中、悪阻からはじまる体調不良、お腹が大きくなってくると身体も休まりにくくなります。また無事に出産できるのか、育児もうまくできるのか母体は不安になりがちです。身体のサポートや心のケアを父親にはお願いしたいです。分娩は男性には真似できませんから、しっかり支えてあげてください。無事に分娩が終われば、「子育て」が本格的に始まります。夫婦二人で頑張ってほしいと思います。「案ずるより産むがやすし。」という古人の言葉を信じて無事に「スタート」出来ますよう応援したく思います。

この章では

  • 1産婦人科医が説明!分娩とは。医師の方も、いちど学生に戻ったつもりで振り返り
  • 2私の身体、こんなだった!?
    お産って、ガラッと身体を変えてしまう・・・・産後の色々な困りごと

この2つの総論について大きく取り上げます。

1産婦人科医が説明!分娩とは。医師の方も、いちど学生に戻ったつもりで振り返り(担当:山口 剛史)

お産の様相は時々刻々と変化します。いつ異常事態が発生するのか予測出来ません。突然、生じうる異常に対して、すぐに適切な処置をしなければお母さんの身体や胎児に危険が及ぶことがあります。このような異常事態の発生を予防し、お産が順調に進行するためには処置、検査が必要となります。

産婦人科を選択しなかった医師の方には、教科書なんて手元にない、もうとっくに忘れてしまった、という方もたくさんおられるかもしれません。以下では分娩の経過を簡単に復習したいと思います。 ポイントをまとめたハンドブック資料のように、ご参考にしてください。

Ⅰ.分娩の3要素

「産道」「胎児」「娩出力」の3要素があります。

1)産道
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図1 骨盤軸(骨盤誘導線)

「骨産道」といった骨盤に囲まれた部分とその内側を「軟産道」という、子宮、腟及び外陰部の一部の軟部組織の集合体があります。
「骨盤軸(骨盤誘導線)」※1)(図1)に沿って産道を児頭が廻旋しながら通過してきます。軟産道は分娩の進行とともに陣痛の力で出向部に向かう胎児に圧排されて押し広げられます。

出典:海野信也、佐藤和雄・藤本征一郎、臨床エビデンス産科学 第2版、81項、2006年、株式会社メジカルビュー社、東京

参考文献
※1) 佐藤和雄,藤本征一郎:編集:[第2版]臨床エビデンス産科学,2006年,メジカルビュー社,東京.

2)胎児

胎児が産道を通過できるかが大切です。通りやすくなるために、児頭の頭蓋骨はまだ骨癒合しておらず骨重積という応形機能を持っています。

3)娩出力

陣痛の強さと母体のいきみが大切です。

「通り道に問題なく、娩出力によって産道を回旋しながら胎児は出される。」この過程が無事終われば正常分娩といえるわけです。そして胎盤の娩出をもって分娩終了となります。分娩は大方安全に終わるものですが(終わってほしいものですが)、分娩に臨む前にある程度の知識は持っておいたほうが良いと思います。

Ⅱ.正常分娩経過

分娩進行にはおおよその目安があります。

1)日本人の分娩所要時間(第1期:子宮口全開大まで)の平均は初産婦で10~12時間、経産婦で4~6時間と言われています。
注:ACOG(アメリカ産婦人科学会)の見解では子宮口が6cm未満までを潜伏期 と言い遷延しても病的意義はないともいわれています。

2)分娩第2期(子宮口が全開大してから胎児娩出まで)の時間は概ね、初産婦では2~3時間、経産婦はその半分と言われます。
初産婦で30時間以上、経産婦では15時間以上要した分娩を遷延分娩と定義します。第2期の所要時間が24時間を超えると胎児にnon -reassuring(赤ちゃんが元気でない。)の状態が増えるといわれます。

Ⅲ.正常分娩経過

1)陣痛発来

お腹の張る間隔が10分を切ってくることを陣痛発来といいます。分娩監視装置をつけて子宮収縮の頻度や強さと胎児心拍をモニタリングします。内診検査も行い子宮口の開大度や破水の有無などをみて入院とするか検討します。経産婦の方は分娩が急に進行することも多々あるため子宮口が開いていなくても入院で観察することが多いです。
分娩時の体位に関してはバースプランを立てて色々な体位で分娩に臨む施設もあります。前期破水といって陣痛より先に破水が先行することもあり、破水の場合は入院管理となります。

2)分娩監視装置をつけて

陣痛が来た場合、産婦さんのお腹にモニター(腹部緊満計と胎児心音計)をつけて監視します。陣痛の間隔と児心音が問題ないか観察していきます。陣痛が強すぎないか、弱すぎないか、また、陣痛というストレスで胎児が低酸素状態にさらされていないかを監視していきます。

3)会陰切開

医師が必要と判断した場合、会陰切開を行うことがあります。会陰が伸展せず裂傷が避けられない場合や児のストレスなど、早い娩出が望ましい場合行うことが多いです。

Ⅳ.分娩経過に異常が出た時の対応

1)陣痛促進剤

分娩進行のためには適切な陣痛が必要です。しかし、ときには陣痛が弱く分娩が進まないこともあり、陣痛促進剤の使用を考えます。
有効陣痛(分娩を進行させるために適切な陣痛)を目指し、過強陣痛とならないように陣痛促進剤の投与法は少量から開始し徐々に増量していきます。
ある程度分娩が進行しても娩出に至らない場合は、吸引、鉗子分娩、帝王切開などの選択がなされることがあります。

2)器械分娩(吸引分娩・鉗子分娩)について

陣痛が弱い、早く児を娩出した方が良いと判断された場合の選択肢です。児頭の下降が十分で経腟分娩可能と判断できたら、児頭に吸引カップをかけて陰圧をかけて吸引、骨盤軸に沿って牽引します(鉗子分娩の場合は産科用の分娩鉗子で児頭を挟み牽引)。牽引だけでは娩出が困難な場合が多いので産婦さんのいきみに合わせて、牽引しつつクリステル圧出法(産婦さんの腹部を圧迫)も併用して娩出させます。

3)帝王切開術
図2 帝王切開術(子宮下部横切開)
児頭の下降具合によっては子宮筋層が裂けないように注意して娩出します。
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経腟分娩が困難・リスクがあると考えられる症例などに対して行う術式です。帝王切開については通常は腰椎麻酔を行いますが状況により全身麻酔管理下に行うこともあります。

ⅰ)遷延分娩、分娩停止

以下の場合など

  • ① 子宮口が硬く広がらない(軟産道強靭)
  • ② 胎児が大きすぎて産道を通れない(児頭骨盤不均衡)
  • ③ 回旋が悪い(回旋異常)
  • ④ 陣痛が強くならない(微弱陣痛)
ⅱ)最初から経腟分娩にリスクがあると考えられる症例

骨盤位(いわゆる逆子)。巨大児など

ⅲ)子宮手術の既往

子宮手術既往で陣痛が子宮破裂*1)の危険因子と考えられる場合

緊急帝王切開は分娩進行中に早く分娩を終わらせる必要がある場合に対して行います。
例:妊娠高血圧症候群*2)の増悪、常位胎盤早期剥離、胎児の状態不良など。

補足)帝王切開後の普通分娩に挑戦(TOLAC : trial of labor after cesarean delivery)はできないのですか?
日本産婦人科学会のガイドラインでは「緊急帝王切開が出来て子宮破裂の場合に緊急対応できること。」と記載があります。帝王切開既往妊婦が経腟分娩を試みた場合、子宮破裂率は0.2~0.7%程度と言われています。子宮破裂を起こした場合、急激に母児共に危険になるため迅速な緊急帝王切開への切り替えが急務です。手術決定から開始に掛かる時間などは施設によって差もありますので担当医から十分に説明を受けて下さい。現状では既往帝王切開の方は帝王切開で分娩する施設が多いです。

Ⅴ.無痛分娩

分娩時の痛みを緩和する方法として、呼吸法で痛みを逃していくようなラマーズ法も有名ですが最近では無痛分娩を行うことが多くなりました。施設により開始時期、麻酔薬の投与方法は異なりますが、私の施設で行う方法としては陣痛発来後、子宮口が3~4cmに開大したところで硬膜外麻酔※1)(図3)を行います。(痛みに耐えられない方の場合、早めに麻酔を行うこともあります。)
麻酔薬を注入し、数十分経過すると痛みが和らいできます。痛みが軽減し骨盤底の筋肉の緊張もほぐれますので軟産道が弛緩して分娩の進行がよくなる効果も期待できます。麻酔により陣痛自体を弱めてしまうことが多いので、陣痛促進剤も併用して分娩を見守ります。
硬膜外麻酔の副作用により、低血圧や嘔気・嘔吐などを起こさないか、また、チューブの迷入で脊椎麻酔となり呼吸障害といった重篤な副作用を起こさないか十分に注意しながら管理します。
いよいよ出産に臨む際、麻酔により腹圧が掛けられない時には、吸引分娩やクリステル圧迫法を用い出産のお手伝いをすることもあります。

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出典:一般社団法人日本産科麻酔科学会、無痛分娩Q&A

参考文献
※1) 日本産科麻酔学会:編集: 学会ホームページ.JSOAP,2022年.

Ⅵ.産後の異常(特に出血)

無事出産に至ったあとも注意が必要です。
分娩での死亡原因第1位は「出血」です。産科危機的出血といい、一気にリットル単位での出血が出ることもあります。産科医は出血量と血圧・脈拍を常に注視しているのです。
通常は、児・胎盤が排出されると子宮が収縮し、胎盤剥離面の血管が攣縮し出血がおさまります。しかし子宮の収縮不良があると止血できず産後の出血が危機的となることがあります。巨大児を娩出した場合や分娩が遷延して子宮筋の疲労がある場合も収縮不良をきたすことがあります。
裂傷・子宮収縮不良などで大量に予期し得ない出血が起きると、DIC(disseminated intravascular coagulation syndrome)につながることがあります。
輸血や放射線科によるIVRで子宮動脈塞栓療法を行うこともあります。

*1)子宮破裂

子宮手術既往のある方は子宮筋層に損傷があり、創の治癒過程で子宮筋層が薄くなることがあり、妊娠経過中に子宮破裂を起こすことがあります。また、手術の既往がない子宮奇形・多産などの場合でも起こります。
子宮破裂が起こると母児共に危険に曝されますので持続するような下腹部痛や我慢できない下腹部痛が生じたときは、かかりつけの先生に直ぐに相談するようにしてください。

*2)妊娠高血圧症候群

妊娠20週以降、分娩後12週までに高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症候が偶発合併症によらないものをいいます。詳しい病型分類は述べませんが、名称、定義の改変を経て、ACOG(アメリカ産婦人科学会)とISSHP(国際妊娠高血圧学会)により、現在では、高血圧と蛋白尿を主体とした定義・分類から、蛋白尿がなくても中枢神経系、肝臓、血液などの異常が新たに発症した場合も含め多臓器障害が本症の診断基準に取り入れられています。 近年は、血管内皮障害/傷害が本症の病態で妊娠高血圧腎症(preeclampsia:高血圧や蛋白尿)を発症すると考えられています。胎盤血流の低下や低酸素は胎児の健康状態を悪化させます。児の胎内管理を継続するにせよ、児を娩出し管理するにせよ厳重な管理が必要です。

醍醐渡辺クリニック 診療部長 山口 剛史
・卒後25年目
・専門は不妊治療、周産期医療

2私の身体、こんなだった!?
お産って、ガラッと身体を変えてしまう・・・・産後の色々な困りごと(担当:衛藤 美穂)

出産し、やっと赤ちゃんにご対面!ですが、これで終わりではなく、表題の通り、ここから育児がスタートです。
みなさま、冷静に考えてみてください。あんな大きなもの(胎児)が体内から出てくるのですから、母体はかなり無理をして身体をその状況に適応させて、乗り越えてきたのです。産前の元の状態に戻るのに時間がかかる、傷ついてしまい元に戻りきらない可能性もある、なんてある意味当然なことではないでしょうか?
産後は、身体的には分娩前後の急激なホルモン変動による変化が起こり、妊娠前の状態に回復するまでにかなりの時間がかかります。心理的には母親になった喜びを自覚する一方、育児中心の生活に当惑し、負担のかかる時期を迎えます。まずは夫や家族の協力を得てゆっくりゆっくり静養してください。
産後よくある以下の困りごとなどのテーマについて考えたいと思います。

【授乳と母乳】

授乳は赤ちゃんの食事でもあり、お互いの愛着を深める素敵な時でもありますね。
基本的には母乳をお勧めすることが多いですが、体調や体質によっては赤ちゃんの求める量に足らずミルクを足す必要があるお母さんもいれば、美容や仕事・治療上で完全ミルクを希望するお母さんもおられます。また、陥没乳頭など乳頭の形が赤ちゃんに吸いにくい形であり、直接吸啜することが難しく一旦搾乳して哺乳瓶であげる場合もあります。過剰分泌して、自発痛があり触るのも痛い!怖い!となる方もいれば、頑張ってもなかなか分泌が増えないと悩む方もいて、本当に個人差が大きいです。
うまくいかないと精神的にも身体的にも本当に疲れてしまいますよね。
でも、赤ちゃんも哺乳の初心者です!最初からうまく吸啜できない場合もあります。私と赤ちゃんのペアも練習が必要だ、と長期目線で繰り返しトライしてあげてください。
また、赤ちゃんの方にも好みがあって、どうしても母乳でないと嫌!と好みのはっきりした赤ちゃんもいれば、ミルクも大好きという赤ちゃんもいます。
初乳には移行抗体というお母さんからの抵抗力のプレゼントがありますので、できれば赤ちゃんに飲んでもらいたいし、授乳への工夫を続けることは良いですが、うまくいかなくても母乳のみに強くこだわる必要はありません。その時の状況でミルクと母乳の割合を決めていただけたら良いと思います。
赤ちゃんが順調に大きく成長し、お母さんの負担が少ない良い塩梅を探していただけるのが一番です。助産師などのアドバイスもうまく利用してください。

【乳腺炎】

乳汁分泌中の乳腺での炎症のことです。
産後2−3日で急速に乳房緊満を認めます。その後は、乳腺炎は2〜3週目に起こりやすいと言われますが、授乳中のどの時期にも起こりえます。乳房から効果的に乳汁を取り去ることが予防になります。

① 急性乳汁うっ滞性乳腺炎
産後授乳中の乳腺炎の多く。乳房の腫れやしこり、痛み、皮膚の発赤、熱感を認めます。
固くなっているところをマッサージしながら母乳を飲んでもらう、頻回に搾乳するなどでうっ滞した母乳を排出してもらいます。乳腺は放射線状に配置されているので、授乳時の赤ちゃんの抱きかたを変えることで吸啜する向きを変えることができ、複数の乳腺からの母乳をまんべんなく飲んでもらうことができます。
② 急性化膿性乳腺炎
うっ滞性乳腺炎に細菌感染が伴ったもの。38度を超える発熱や悪寒戦慄が出ることもあります。基本的に抗生剤内服で治療を行うが、乳腺内に膿汁が溜まった場合は切開等で排膿することもあります。

参考:公益社団法人日本助産師会授乳支援委員会編集、乳腺炎ケアガイドライン2020 第2刷、2021年、株式会社日本助産師会出版、東京

【尿失禁】

なんと産後の30−50%の女性が尿失禁を経験すると言われています。
尿失禁にはいろいろタイプがありますが、最も多いのが腹圧性尿失禁です。咳・くしゃみ、大声でわらう、階段の上り下り、重い荷物を持つなど、腹圧がかかると尿が漏れてしまいます。妊娠・分娩による骨盤底筋の損傷が原因です。(また反対に、産道を通ってくる児頭による圧迫などが原因で一時的に膀胱の神経鈍麻を生じ、尿意が感じられず排尿できない障害が出ることもあります。)
児頭が骨盤に嵌頓してから分娩に至るまでの時間が長かったり、吸引・鉗子分娩などが必要だった場合などは特に骨盤底筋へのダメージが多くなることが予想されます。
それらの症状は産後徐々に回復することが多いですが、なかなか軽快しない場合は以下の方法を提案しています。それでも軽快がみられない場合はウロギネ科などへの受診をお勧めします。

① 腹圧をかけない生活
きばる・重いものを持ち上げるなどの動作を避けることで、傷んだ骨盤底筋の回復を促します。また、尿漏れを恐れて、漏れないように予防的に定期排尿する習慣がつくと、少ない膀胱容量のうちに腹圧をかけて排尿することになり、膀胱容量を小さくすることにもつながるのでよくありません。いつでも排尿できる環境では尿をため、少し我慢して尿意を感じてから排尿するように訓練することも一つの方法です。
② 骨盤底筋体操

隙間時間でいいので、傷んだ骨盤底筋を鍛える運動を取り入れてください。自己流ではうまくできているか不安という方は、ヨガやピラティス教室などでは産後リカバリーに特化したクラスを設定している場合もあります。外出が難しい場合はオンライン教室もあります。You Tubeなどでもたくさん動画が上がっていますので、それを参考にするのもいいですね。

■基本の骨盤底筋体操

  • ①膝を立てた仰臥位を取る。腰が浮かないよう踵を踏ん張るように力を入れ、腰部を床面に軽く押し付けるようにする。できるだけリラックスし背面全体が床につくように姿勢を作る。
  • ②骨盤底筋を軽く「キュッ」と締める(「ギューッ」と締め続けるのではなく、腹式呼吸の前に体にスイッチを入れるイメージで軽く締める)。
  • ③腹部をへこませながら、骨盤底筋を持ち上げるようにイメージしながらゆっくりと口を軽く横に広げるように開き「ハー」と長く息を吐く(口をすぼめて「フー」と吐くと、腹直筋などに力が入りやすいため「ハー」と息を吐くように指導する)。
  • ④息を吐き切ったら、リラックスして自然にわずかに腹部が膨らむように息を吸う。
    基本の骨盤底筋体操を習得できたら、やや負荷をかけて、腰を挙げたハーフブリッジの姿勢で腹式呼吸を行う。
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(a)骨盤底筋を締めるイメージ

  • ・おならを我慢するように
  • ・尿を止めるように
  • ・膣を締めるように

(B)腹部をへこませながら息を吐くイメージ

  • ・背中に向けて垂直に腹部をへこませるのではなく、恥骨結合のすぐ上部から、歯磨き粉のチューブを巻き上げるように、少しずつ息を吐く
  • ・濡れたタオルをつまんでゆっくりと持ち上げるように、骨盤底筋群を挙上させるイメージを持つ
  • ・骨盤底から頭頂部まで軽くジッパーを閉めるようにイメージする

出典:三國和美、PERINATAL CARE(ペリネイタルケア)夏季増刊、246頁、2020年、株式会社メディカ出版、大阪

【マタニティブルー】

分娩直後から産後7〜10日以内に見られる一過性の情緒不安定な状態のことを言います。気分の落ち込み、不安、涙もろい、不眠、頭痛、疲労感、食欲不振などの症状がでます。一般的には「マタニティブルー」と呼ばれていますが、その呼び方は俗称であり、正式名称は「マタニティブルーズ」と言います。
2週間程度で自然軽快することが多いです。産後に数人に1人の女性が経験するものです。産後のホルモンバランスの急激な変化が一番の原因とされますが、それに加えて分娩による疲労・睡眠不足・育児のストレスや不安などが関与しています。
妊娠前にP M S(月経前症候群)、P M D D(月経前不快症候群)でお困りだった、ホルモン変動の影響を受けやすい方もマタニティブルーになりやすいという説もあります。
基本的には産後すぐに発症しますが一過性のものです。疲れや睡眠不足は抑うつ状態を助長する要因ですので、授乳の間はよく休めるようにしてください。また、気軽に話せる家族や友人がいると良いですね。
周りの人もこのような状態が起こりうることを知っておいてください。
これが長引くと「産後うつ」に移行してしまう可能性もあります。症状が強い場合や、もともと精神疾患既往の方も要注意です。一人で抱え込まずに助産師・産婦人科医にご相談ください。

参考:①PERINATAL CARE(ペリネイタルケア)夏季増刊、2020年、株式会社メディカ出版、大阪
②日本周産期メンタルヘルス学会 妊産褥婦さん向けのメンタルヘルス全般のリーフレット

【産後うつ】

産後うつ病は日本では約10%前後の母親がかかるといわれています。産後3ヶ月以内に発症することが多く、症状は2週間以上持続します。マタニティブルーに対して、産後うつは中等度から重度のいろいろな症状を伴います。症状は日によって波があり変化しやすいのも特徴です。
発症要因としてはうつ病の既往のほか、パートナーからのサポート不足などの育児環境要因もあるとされます。
お母さん自身が変化を自覚できず努力不足のように思ったり、周囲も怠けているのではないかと考えがちでもあります。また、本人からケアを求めないことも多いので、周囲がよく観察してあげることも重要です。
こころの病気は早期の適切な治療によって治ります。早期に治療しないと遷延しやすい場合もあるので、気になったらまずは周りに相談し、専門医を受診してくださいね。
以下のチェックリストを参考にして当てはまるポイントがあれば、受診を検討ください。

産後のこころの自己チェックリスト

  • ・疲労感、不眠
  • ・不安、緊張、パニック
  • ・イライラする
  • ・希望を持てない
  • ・集中力や記憶力が弱くなる
  • ・気分が変化しやすい
  • ・せかせかする
  • ・興味に欠ける
  • ・自分を責める
  • ・自分を情けなく思う
  • ・食欲がなくなる
  • ・子供や夫に愛情を感じなかったり、持てない

参考:①公益社団法人日本産婦人科医会、女性の健康Q&A https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/jyosei200311/
②日本周産期メンタルヘルス学会 妊産褥婦さん向けのメンタルヘルス全般のリーフレット

【パタニティブルー】

正式な医療用語ではないですが、最近はマタニティならぬ「パタニティブルー」が言われています。簡単にいうと、パパ版の産前産後の不安障害です。生活スタイルが急変するのは夫も同じですよね。
産前よりは産後に多いとされます。原因は生活スタイルの急激な変化、父親としての責任感、育児・将来への不安などとされます。また、どうしても父親の方が赤ちゃん誕生までに心の準備が十分できないことも一因とされます。気づかれないうちに症状が悪化して・長期化する可能性もあるので、妻と同様、一人で抱え込まないようにしてください。

【産後ケア施設】

出産後、ママの心と身体を休ませながら新生児の育児をサポートしてくれるものです。民間企業のみならず、自治体でも積極的に産後ケアの取り組みを行なっています。両親が遠方・就労しているなど、支援が少ないご家庭の方は、孤立せずにこのようなサポートもどんどん利用を検討してください。

京都市の場合は京都市スマイルママ・ホッと事業(産後ケア事業)がというものあります。産科医療機関や助産所で専門的なショートステイやデイケアの母親の心身的ケアや育児サポートを受けられます。住民票が京都市にあり、京都市に居住している乳児・母親で、条件を満たす方は産後1年まで母子の支援を受けられます。日帰り型・宿泊型のサービスがあります。詳しくは以下のホームページでご確認ください。
https://www.city.kyoto.lg.jp/hagukumi/page/0000168986.html

【こんなはずじゃなかった・・・理想と違う状況になってしまったとき/ 産科医からのメッセージ】

バースプランとは、自分らしく満足する出産を迎えるために、妊婦さんの出産に対する考え方や希望や要望を述べたものです。それを元に妊婦さんと医療者が話し合いをすることで妊婦さんの出産に対する知識を深めてお互いの理解を確認することが目的です。
すり合わせをして、「こういうお産にしたい!」というものをだしていただき、医療者もそれを叶えるように目指します。
ところが、バースプランも、産後の経過も自分の想像・予定通りに進まないことが珍しくありません。理想通りに進まなかった方もいるでしょう。分娩経験者の経産婦さんでも、一人目と同じように行くとは限りません。自分の体力の度合い・環境も変わっていますし、対応する赤ちゃんの個性・性格もまた違うのです。

  • ・赤ちゃんが思ったように寝てくれない、なんで泣くのかわからない
  • ・授乳がうまくいかない 
  • ・赤ちゃんが可愛く思えない   
  • ・洗い物溜まって髪はボサボサ、身の回りのことできなくて自分が許せない  など

予定通りに物事が進まないだけでもストレスなのに、授乳・育児で体力・精神力はどんどん削られると、余計に追い込まれた気分になります・・・。
違いを楽しめる余裕が持てれば一番良い!ですが、まずは睡眠と休息・食事をできるだけしっかりとって体を休めてください。
そして、コントロールできるのは自分だけです。日本の文化で「言葉にしなくても察してほしい」という傾向がありますが、はっきり言って無理です。
他人は思い通りには動いてくれませんし、他人の気持ちを正確に理解はできません。いわんや、言葉の通じない赤ちゃんは、ですよね。
いい意味でも悪い意味でも、赤ちゃんに生活をあわせてあげないと仕方ないのです。自分の理想の赤ちゃんの行動を望んでもそれは叶えられません。60点程度でよしとして、上手にお付き合いしてあげましょう。そして、それを超えてあまりある赤ちゃんのかわいさを満喫してください。
コミュニケーションという言葉の語源は「共通のものを持つ」という意味のラテン語だそうです。夫婦・家族でしっかりコミュニケーションをとる=現状を共有して、自分の気持ちを周りに伝えましょう。対策も考えられ、孤立が防げます。

最後に
産前と産後ではガラッと生活が変わってしまいます。予測はしていたものの、想像していた以上の予想を超えた変化が生じるのではないでしょうか。身体的疲労が蓄積すると、精神面も状態が悪化します。悪いスパイラルに入らないためにも、問題を抱え込まずに余裕を持てるようにして、使える手段はなんでも使って、ご夫婦自身が楽しむ時間も作ってください。皆さんで赤ちゃんとの幸せな生活を楽しんでくださいね!

京都府医師会 医師のワークライフバランス委員会 委員 衛藤美穂
産婦人科指導医・専門医、周産期専門医(母体・胎児)
・卒後24年目
・専門は腹腔鏡・子宮鏡手術

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