記事作成日:2023年12月26日

※この体験談は、執筆者の先生ご自身の思いや感情を、できる限りそのまま表現いただき、私たちもそれを尊重いたしております。表現、用語などは誤解のないように配慮いただいておりますが、お気づきの点がありましたらご意見いただければ幸いです。

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山内 華子
卒後21年目 
皮膚科美容皮膚科

第一子をアメリカで自然分娩しました。 初めての出産が海外で、高齢出産だったので非常にナーバスになっていたこともあり、ドゥーラを雇って産前ケアを、メンタルからも、外からも行いました.ドゥーラとは孤独の中で出産準備、出産、育児に向き合わねばならない母親が増えている中、実際にシミュレーションしながら出産に必要なものの準備をヘルプしてくれたり、体のケアの仕方、乳房マッサージや骨盤ケアの仕方、腰痛対策や、産後の乳腺ケアなどを実践と指導などをしてくれたりするものです。

こういった役目の人を雇って定期的に訪問してもらい、実際の出産の際には病院に来てもらって、陣痛に耐え抜くのを手伝ってもらいました。
39週に入り自宅で破水してから病院に行き、促進剤を使わずに子宮口が開くのを待っていたので、痛みに耐えながらたくさん歩かされて自己誘発していました。結果24時間かかりましたが無事に出産しました。これが第一子です。

当時はアメリカの大学病院で研修医と共に外来や手術を見させていただていたのですが責任があるという仕事ではなかったので、しんどければ休むこともできるし、安静にしていることもできました。

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第二子は、日本に帰ってから仕事に完全復帰し、長男を育てながらの妊娠だったので、非常にきつかった記憶があります。
そのような中、帝王切開をまさかするとは思っていませんでした。

長男を出産後日本に帰国し、4月のタイミングで病院に常勤復帰させていただきました。しかし長男が先天性疾患があり入退院を繰り返したため、一年で常勤を退職し毎日を非常勤で過ごす働き方を選びました。この時点で後任を出す医局にも、勤務先の同僚にも多大な迷惑をかけましたが、いずれ常勤に戻るつもりで、このタイミングでと第二子を予定しました。

幸い妊娠自体は問題なく授かることができ、無理のない範囲で9ヶ月まで仕事をしましたが、妊娠中期からぐるぐると胎児が回転し逆子になったり戻ったりを繰り返していました。成長に問題はなかったのでさほど気にすることもなく過ごしましたが逆子は戻らず妊娠後期になりました。また自然分娩が長時間できつかったので帝王切開に対しても不安はなく、むしろラクして産めると期待していました。

産科医と予定を決めて38週に手術に挑みました。病院は長男を手術室に入れて出産の場に立ち合わせてくださり、臍帯を切ることもさせてくださいました。
私自身もリラックスして長男に「ほらー 妹だよー かわいいね 臍の緒で繋がってるんだよー」などと声かけする余裕がありましたし、無痛の素晴らしさを知った瞬間でした。

しかし硬膜外麻酔が消退しつつあり、術後疼痛が襲ってきた48時間は、過呼吸や頻脈を起こし、安静が保てないほど後陣痛にもがき苦しみました。
4日目で退院した後は前屈しながらの歩行で、咳をするのも排便時も疼痛が強く、長男の世話をしながら家事ができる状態ではありませんでした。

私の母は早くに逝去していたため、義母宅で1週間安静にさせてもらいました。
自宅に帰ってからのひと月は、切開部位の疼痛で信じられないくらいのスローペースでも家事をするのが精一杯でしたが、非常勤先をいつまでも空けられないため、産後2ヶ月目には自分の叔母や妹に新生児を預けて週3の非常勤に復帰しました。

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早々に仕事に復帰した背景には、常勤医師でないと産休はありませんし、非常勤先に長く迷惑をかけることはできない、また生活のためといった理由があります。幸い子宮復古が遅れたり、倒れるようなことはありませんでたし、ブランクがないので仕事に対する不安などは全くありませんでしたが、心身ともに非常にきつい時期でした。

ドゥーラのような、産前産後を優しさといたわりの気持ちを持って母親を守り支えてくれるような存在がいたらいいのにと幾度となく思いました。今思えば産前に外部サポートを依頼して、しっかり準備しておけばよかったと後悔しています。

育児による睡眠不足や疲労等で、心身が押しつぶされそうになりながら頑張っているママ達にも愛情を注いでくれるような存在がいてくれれば、医師という責任ある仕事を全うするのには非常に有益です。

帝王切開かどうかにかかわらず、産後の女性の心身の変化は経験したひとでないと語れないと思います。産前に産後の生活の準備を十分にしておくことで、仕事への責任や向き合い方が違ってくると思いました。
他人であっても身内であってもそういったサポートが複数あることで、子供を持ちながら働くことが大変な負担ではなくなると思います。
出産育児はキャリアの阻害にもなり得ます。責任を持って仕事をしたいのにできない、なんとなくバイトだけしているだけで能力を十分に発揮できないことは働くママたちにとって大きな問題だと感じています。そういった女性医師をたくさんみてきました。

産後10年以上経ちましたが、今も仕事と家事育児の両立は課題です。どうしても女性にウェイトがかかりがちな家事育児を、家族や社会の意識だけで変えることは難しいと思います。男性の育児休暇を女性にとって有益なものにするためには、完全休暇ではなく例えばですが家事育児を勤務の一部にするなど、社会的組織的取り組みを行政が強いるのではなく現場の女性が決める必要があると個人的には思います。
医師だけでなく、女性が責任を持って仕事することは、女性のキャリアアップ、女性の社会的地位の向上につながるのではないかと考えています。多くのサポートをアウトソーシングして、自身の体も心も健康でいること、それが健やかな育児につながること、女性のキャリアアップにつながることを認識して、両立を成し遂げて欲しいです。

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