※この体験談は、執筆者の先生ご自身の思いや感情を、できる限りそのまま表現いただき、私たちもそれを尊重いたしております。表現、用語などは誤解のないように配慮いただいておりますが、お気づきの点がありましたらご意見いただければ幸いです。
診療科長(他の教室では医局長に該当)は教授と各臨床部門担当者の間に立ち、入院病床配当・病歴管理・医業収益・医療安全・研修医指導・ポリクリ学生症例配当などをこなす、診療科の要です。年次定期人事においては、秋頃に各関連病院に人事要望アンケートを送付し、定年退職・開業予定・異動希望・若手定期ローテーションなどの医師数を把握します。
その一方で大学医局内からの出向予定者(有給職・大学院修了・専攻医・研修医)をリストアップした上で、経験年数や専門領域を考慮しながら人事を決めていきます。原案は診療科長が作成しますが、最終決断は教授が行い、診療科長が当該職員に決定事項を伝えます。勤務地希望や家庭状況は各人各様であり、本人の希望に全く沿わない人事はモチベーション低下やキャリアパスの障害となり、出向先病院にも迷惑を掛けることとなります。医局員全員が100%希望通りの人事となることは現実的に不可能ですが、「満足」「やや満足」してもらえるように時間をかけて説明し、時には食事をしながら合意形成を図ることもありました。
循環器内科の業務は、外来診療・入院診療・心エコーや核医学など各種検査・心臓カテーテル検査・治療などの通常業務に加えて、急性心筋梗塞・心不全・院外心肺停止など緊急対応のスキルが求められます。常に多忙でプライベート時間が取りにくいため、最近ではブラック診療科として敬遠される傾向があるようですが、生死に直結する診断治療内容から「医師のライフワークとして、好きでないと続かない」診療科です。
当時、毎年の入局者は7-10名(女性2-3名)ほどで、とある年の大学循環器医局構成員は52名(女性9名, 17%)でした。小生が診療科長時代の7年間、部下の結婚式披露宴には何度も出席しましたが、在任中の「部下の妊娠にかかる業務マネジメント対応」の経験はありませんでした。但し、関連病院での予期しない退職や開業OB医師の疾病休職中の代理要請は何度かあり、その都度臨時で医局員を交代派遣しました。もし部下から「妊娠しました」との申し出があった場合、まずは危険有害業務を停止し、本人の意向を丁寧に聞いた上での業務調整に素早く対応出来たとは思います。
しかし、当時の大学病院・医局が「妊娠したこと」を言い出しやすい職場環境を日頃から積極的に整えていたかについては課題が残ります。(現在は大幅に改善されていると伺っています)
循環器内科として常勤循環器専門医8名、有期雇用(専攻医・大学院生)2-4名となります。このメンバーで外来3診/日、入院診療、カテーテル検査治療2室(冠動脈stent留置術、下肢動脈血管内治療、不整脈への心筋焼灼術、ペースメーカー移植など)、心臓核医学検査3/週、運動負荷心電図2/週、各種カンファレンスを実施しています。循環器内科部長として9年目に入りますが、この期間の女性医師は専攻医3名(1名は他院専攻医の半年間当院派遣)でした。当院専攻医2名は在職中に、他院専攻医も後日結婚されました。
専攻医を加えて10名を超える所帯なので余裕ある診療科と思われるかも知れませんが、外来3名、非侵襲的検査出番1名、カテ室2箇所4名(急性心筋梗塞や心停止対応では外回り医師も必須)に加えて、ER呼出・病棟急変対応(他科含む)などがあります。ドクターカーで他院迎え、当直明け早退、夏休み休暇などが重なると、人員は一気に厳しくなります。平日日勤帯以外の業務としては、月2回のER勤務(当直)に加えて月3回のOn call待機があります。
この9年間、「部下の妊娠にかかる業務マネジメント対応」の経験はありませんでした。しかし子育て中の男性医師が大半ですので、入園卒園式・入学卒業式・妻の妊娠出産などのライフイベント、家族が体調不良などの際には、業務を他の医師に任せて家族を最優先するように配慮しています。所属医師がコロナ感染・濃厚接触隔離となった際には一気に業務が厳しくなり、私も2週間で代診含めて8回の外来をこなしたこともありました。専攻医が僅か1名の時期、所属医師が長期疾病休養等の際には、非侵襲的検査枠削減・救急応需抑制の対応を取りました。将来的に専攻医がゼロとなり、長期休職が複数名となった場合には、大学医局に代理医師派遣を要請することを考えています。
京都第一赤十字病院は約600床の大規模市中病院であり、男女雇用機会均等法・労基法・育児介護休業法を遵守しています。当院の女性医師比率34%の数字は第116回医師国家試験合格者における男女比とほぼ同じであり、ある程度は「女性医師に評価頂いている病院」だと思いますが、女性医師比率は診療科毎に大きく異なります。妊娠・産休・育休者が出た場合、発熱(コロナ)外来輪番や当直免除などは診療科の垣根を越えて調整可能ですが、診療科独自の検査・治療は院内他科医師の代理が効かず、診療科毎で大学医局に診療支援をお願いする必要があります。
2022年度診療報酬改定には「医師の働き方改革」が明記されており、2024年度から医師の時間外労働上限は診療従事勤務医960時間/年、集中的技能向上医師1860時間、連続勤務時間制限28時間・勤務時間インターバル確保9時間となります。しかしこの数字自体、一般企業や他の医療職種と対比すると常軌を逸しており、極端に医師に偏った業務量・責任を是正する必要があります。タスクシェア・タスクシフトのみならず、主治医制からチーム制への改変、通常勤務時間内での重要事項説明、フレックス・時短勤務を含めた多様な勤務体制の提供を進めるべきです。
政府・男女共同参画局では、女性応援ポータルサイトで妊娠・出産の支援、子育て支援、男性の家事・子育てへの参画促進を進めています。イクメンプロジェクトや「夫婦が本音で話せる魔法のシート・○○家作戦会議」も閲覧可能です。
部下が仕事・プライベートの両方で人として成長し満足度の高い医師人生を送ること、そして医療を通じて社会貢献し、先輩医師を超えることが上司としての最大の喜びです。