記事作成日:2023年1月25日

※この体験談は、執筆者の先生ご自身の思いや感情を、できる限りそのまま表現いただき、私たちもそれを尊重いたしております。表現、用語などは誤解のないように配慮いただいておりますが、お気づきの点がありましたらご意見いただければ幸いです。

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おおいずみ よう
卒後10年目 
産婦人科医 (産婦人科専門医 日本産婦人科内視鏡学会 腹腔鏡技術認定医)
妊娠方法:体外受精胚移植

1妊娠中期(16-27週)

業務内容: 外来 手術 分娩対応 当直・オンコール
8時半出勤 20時~23時退勤

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教科書的にはつわりが落ち着いて色々なことができるようになるころ、とされているが私の場合は20週ごろまでは比較的強い吐き気があった。徐々につわりは改善傾向にあったものの、特に朝は電車を乗り換えて通勤することがつらい日が多かった。各停車駅ごとにトイレの位置を把握して、ビニール袋をカバンの中に入れて移動していた。

  • ・いつでも吐けるよう、通勤時には各駅のトイレの位置を知っておく
  • ・ビニール袋がカバンに入っているという安心感がある
  • ・電車の中では目を閉じて心を無にする
  • ・つわり中のたべもの 都こんぶ もずく トマト 魚肉ソーセージ(日によって違う)

手術に入るときは必ず直前に水分を取り、血圧が下がらないように心掛けた。しかしどれだけ気合を入れて臨んでも、圧倒的に妊娠前より術中に体調が悪くなりやすい(特に助手をしている際)状態だったので、すぐ座ることができるよう、つらくなったら椅子の準備を手術室NSに頼んだ。

当初は申し訳ない、情けないという思いがあったが、患者の安全が第一優先であり、徐々に遠慮はなくなった。そのうち私が術者として手洗いする時には背後にルーチンで椅子がセッティングされるようになった。具体的には、嘔気を感じてしばらくすると、だんだん額に脂汗が出て生あくびがとまらずオペに集中できなくなるような感じだった。低血圧が影響したと予想するが幸い失神したことはない。

困ったのは後輩と手術している時である。後輩は私の指導のもと手術操作をしているので、私がフラフラしていては全くオペが進まない。特に休日に後輩と二人で手術しているときなどは、申し訳ないが一旦手術を中止して座り、私の調子が戻ってから再開していた。麻酔科もNSも、もちろん後輩も心配こそすれ嫌な顔をする人はいなかったのでありがたかった。ただこの環境はかなり無理があるため、後輩には同じ思いをさせたくないというのが正直なところだ。

患者さんの移乗などもずいぶんとNSが配慮してくれたように思う。予定手術症例や緊急手術も多く比較的厳しい環境の手術室ではあるが、様々な局面でNSに助けられた。

  • ・手術では手洗い前に必ず水分補給
  • ・つらくなってきたら辛抱せずに早めに座る(その方が結果として患者さんの不利益が少ない)
  • ・後輩と手術する時はバックアップ体制があるとありがたい

産まれた子供を育てるにあたって引越しする必要があったため20週の土日で引越しを予定した。この頃には吐き気がほとんどなくなっており、やや胎動も感じるようになったので嬉しさもあり元気になってきた。が、日々仕事をすることに精一杯で夫と自分の荷物を整理し梱包する時間も体力もなかったのでこれは引越し業者の梱包サービスを利用した。実家の母に助けを求める選択肢もあったが、コロナ大流行中であったのでやめておいた。

  • ・引越しは20週ごろ
  • ・梱包サービスの利用がおすすめ

25週のある日、3時間程度の手術(自分が執刀)を終えて後輩と閉腹している際に非常に強い腹痛を感じた。座ったら治るかと座ってみたがずっと痛い。常位胎盤早期剥離だったらどうしよう、子供は大丈夫かと考えて恐ろしくなった。幸い平日の日中だったので閉腹のためだけに上司を呼び手術を終えてもらった。

術衣を脱ぎ触るとお腹が非常に硬くなっておりどうも子宮が強く収縮している印象であった。病棟の空いているベッドで転がっていたところ、助産師がホットパックを持ってきてくれたので温めたら治った。幸い超音波検査では問題なかった。冬であったこともあり冷えが原因だったようで、その後はかならず腹巻をするようになった。骨盤ベルトも仕事中はつけることにした。

  • ・冷えて立ちっぱなしだと子宮が収縮することがある
  • ・冬は腹巻と骨盤ベルトを巻く

25-27週は重症の患者さんを担当することが多かった。全身管理のため頻回に訪室しなければならないが、患者さんが発熱していたので病院のコロナ感染対策にのっとりフルPPE(N95+サージカルマスク ガウン 帽子など)を一日に何度も着脱した。ただでさえお腹が出てきて苦しいのにN95はつらかった。ただコロナに感染して重症化するよりましと考え耐えた。感染の可能性のある患者さんへの訪室は必要最小限とし、可能な限りナースコールなどを利用して患者さんとコミュニケーションをとった。

  • ・妊婦にN95はきつい。
  • ・ナースコールは便利 患者さんを孤独にしない工夫の一つとなりえる。
  • (そばには行けないけれど、離れたところからしっかり見つめていますよと伝える)

2妊娠後期(28週以降)

業務内容: 外来 手術 分娩対応  当直・オンコール
8時半出勤 20時~23時退勤

個人差はあると思うが、私の場合は30週ぐらいまでお腹が目立たなかったので私の妊娠に気づく患者さんはほぼいなかった。(気づいていて黙っていてくださったのかもしれないが)しかしそれ以降は、大きなスクラブを着てもお腹が目立つようになり、患者さんから声をかけて頂くことも多く、また産休中の診療引継ぎにあたってこちらから説明する必要があった。

妊娠や産休を伝えるにあたって、特に流産・死産された患者さんで継続診療が必要な方や不妊治療が上手くいっていない患者さん、本意ではなく子宮全摘をせざるを得ない患者さんについては心苦しいタイミングがかなりあった。だからといってそのような患者さん達から逃げるわけにもいかず、そこは割り切って考え説明しなければならない。妊娠したことを申し訳なく思う必要はない、だが複雑が気持ちにはなる。

  • ・お腹が目立ってきたら、患者さんに気を遣うことがあるが案外気にしているのは自分だけかもしれない。

28週のある夜、医局で手術動画の復習をしていたら不思議な子供の動きを察知した。様子を見るとしゃっくりをしているようで、この人も一生懸命生きているのですねと思った。この時期は業務がひっ迫して疲れ果てていたので、かなり癒されたことを記憶している。

30週を過ぎると、お腹が当たり術中の体の位置が手術台から遠くなってくる。腹腔鏡は気にならないが開腹だとやり辛さを感じることがあった。またお腹の張りや腰痛もかなりでてきたので、骨盤ベルトをしつつ、腹腔鏡の場合にはほぼ座って手術をしていた。座ると、肘が上がり腕が辛いのだが(ポートの位置にもよる)、腰が痛いよりましである。腕は鍛えれば問題ない。

この頃になると手術計画にもかなり神経を使う。外来で手術を決める際には、初診時に自分が妊娠していること、術後の外来受診が途中で引継ぎになるかもしれないことを説明した。それでも私の手術担当を希望してくださる患者さんは案外多く、ありがたいと思う反面、絶対に合併症を起こしてはならないと誓った。

  • ・座って行う手術は上腕の筋肉が必要(肘が上がるため)
  • ・患者さんに対して、術後に自分が産休に入る可能性を説明する

産休に入る3カ月前から外来業務の引継ぎに取り掛かった。3カ月おきの受診の方がいるからである。自分が継続診療してきた患者さんのショートサマリーを作ったり、引継いで頂く先生を誰にするのかを考えたりする必要があるため、外来の予習復習に時間がかかった。他科と併診している方は、他科の担当医にも伝える必要がある。計画的に引き継がないと、土壇場でカオスになるので少しずつ進めるのがよいなと思った。(実際には引継ぎがスムーズにいかないこともある)

  • ・余裕をもって業務の引継ぎをする。

3おわりに

初めての妊娠でおろおろしながら過ごした期間でした。レジデントで妊婦になるより、スタッフで手術の資格を取ったあとに妊婦になった方が色々と楽なのかな?と考えていましたが、案外そうでもないことも多く仕事のことを考えて妊娠の時期をコントロールする必要はないのだなと思いました。(いつの時期でも大変な時はある)私のように不妊症の場合には、あまり先延ばしにすると後悔につながるかもしれませんから特にそうです。

ただ、職場の先生の中には結婚や妊娠を選択しない方、不妊治療がうまくいっていない方、子育て奮闘中の方がおられる場合もあります。その先生方とどのように折り合いをつけていくのかが非常に重要で、win-winの関係を築く必要があると考えました。

今回の妊娠生活を通して、以前の職場の上司が『妊娠したくなった時に妊娠してください』と言ってくれていたことのありがたみがよくわかりました。私も後輩たちにはそのように伝えたいと今、考えています。

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