記事作成日:2025年4月2日

※この体験談は、執筆者の先生ご自身の思いや感情を、できる限りそのまま表現いただき、私たちもそれを尊重いたしております。表現、用語などは誤解のないように配慮いただいておりますが、お気づきの点がありましたらご意見いただければ幸いです。

そうたろう
そうたろう
卒後17年目 消化器内科医 消化管専門
  • ・医師2年目(研修医):結婚
  • ・医師2-5年目(専攻医):市中病院勤務(消化器内科)
  • ・医師6年目(大学院1年):6月に妊娠、翌年3月出産。産後2週から実験再開
  • ・医師7年目(大学院2年):産後2ヶ月で保育園(延長保育18時半まで)を利用し、院内業務再開。産後5ヶ月から外勤再開
  • ・医師9年目(大学院4年):消化器病・内視鏡専門医取得
  • ・医師10年目(キャリア支援医1年目):幼稚園入園(延長保育18時半まで)。内科専門医取得
  • ・医師13年目(医員2年目):小学校入学(学童保育19時まで)
  • ・医師17年目(助教):現在
私のキャリア

最初に(多種多様!色々な話を聞いてみよう!)

私が思う「妊娠・出産・子育てにおける重要ポイント」を自身の経験を振り返りながら記してみました。
ただ、「千差万別」「多種多様」「十人十色」。。。全くその通りです。
「何が正解か?」というよりも「正解は人それぞれ」。それこそが多様性だと思います。
そこで、色々な人の話を聞いてみることをお勧めします。
家族でも友達でも、同僚でも上司でも。。。直接話を聞く以外にも、この「妊娠に際し職場のみんなで読むマニュアル」のような情報を覗いてみるのも良いと思います。
色々な話を聞き、自分がしっくりいくものを探してみてください。
私の僅かな経験が少しでも誰かのお役に立てれば、もしくは何かのきっかけになれば良いなと思います。。。

1出産・育児

1-1 妊娠を意識してから出産まで(情報収集を欠かさずに)

妊娠・出産のタイミングは誰しも悩むところではないでしょうか。技術の習得、専門医取得を考えると、専攻医終了が妊娠・出産を考えるタイミングになる方が多いように思います。

私は専攻医終了後大学院に進学し、大学院生の間に妊娠・出産をと考えていました。大学院での妊娠・出産のメリットとしては、やはりフレックスな時間の使い方ができることです。実験動物の飼育や実験は24時間、いつでも好きな時にできるので、体調に応じて調整が可能です。

一方、デメリットとしては、産休、育休の制度がないため、経済的な支援が得られないことが挙げられます。加えて、私の場合は、実験に実験動物、有機溶剤、劇薬を使用したため、「胎児にどのような影響があるのか?ないのか?」全くわからないことに大きな不安を感じました。

実験室の先輩に聞いても、「今まで問題になったことがないから大丈夫では?」と曖昧な返答ばかり。自分で調べてみても大した情報が得られず、できる限りベンチレーター内で実験をする、小型扇風機で換気をする、絶対に実験動物に噛まれないようにする。。。等々、自分で思いつく自己流の対策をすることしかできませんでした。
同様の理由から、出産後も「母乳への影響がどの程度あるのか?」という不安につながります。結果としては、今のところ子供に大きな影響は無いように感じますが、わかるような異常が出るようであれば大問題であって、気付かないような影響に関しては、残念ながらやはり不明のままです。

妊娠・出産のタイミングは勤務している病院の状況によっても左右されるかもしれません。下記に妊娠を意識した時に確認しておきたいポイントを挙げてみます。

人生の色々な場面で「遅すぎることはない」と言われることが多いと思います。ただ、妊娠だけはタイミング次第では自分の力ではどうしようもないことがあり得ます。妊娠・出産を意識した際には、下記のようなことを少しリサーチしてみても良いかもしれません。

妊娠を意識した時に確認しておきたいポイント
仕事 プライベート
(可能な範囲で)同僚の妊娠・出産予定 保育施設、病児保育の把握
放射線業務の免除可否 居住地の認可保育申請制度
妊娠中の当直・オンコール体制 居住地の待機児童状況
産前・産後の休職・給与体系(産後の復職可否) 院内保育・病児保育の有無
学会活動状況(取得単位数・休会制度)  

1-2 出産から入園まで(事前準備が大切!)

妊娠期間中と出産以降では生活が激変します。
妊娠中は出産が1つのゴールと考えていましたが、出産後、ここがスタート地点であることを実感しました。
妊娠期間中に出産後の生活イメージをできるだけ具体的に持ち、事前に準備しておくことをお勧めします。

やはり重要なのは保育所の見学、認可保育施設が利用できなかった場合の保育施設の確保、病児保育の確保等々でしょうか。
私は自宅から徒歩5分にある小規模認可保育施設に生後8週から入園する準備をしました。

ただ、予想もしなかったことが起こることもあります。
特に、産後の母子の体調に関しては個人差もあるかと思います。
私の場合は、幸い母子ともに体調に問題がなかったものの、生まれたばかりの生命を預かることに大きな不安、負担を感じ、振り返ってみても産後1ヶ月はしんどい時間だったと思います。

ただ、思う通りにいかなかったとしても「それこそが出産、子育ての醍醐味」とある程度は割り切ることも大切だと思います。

妊娠期間中に確認しておきたいポイント
 
仕事 プライベート
外勤を含めた代診の調整 希望保育施設の受け入れ状況 待機児童になった場合の代替案
(認可外保育?復職延期?)
勤務困難になった場合の
バックアップ
慣らし保育期間居住地の子育て支援サービス
(お迎え保育・家事代行等)
※コロナ禍では京都府医師会
子育てサポーターセンターで
大変お世話になりました!
注意症例のリストアップ 保育施設の延長保育・
土曜受け入れの可否
予定日前後の家族のサポート
産前・産後の休職・給与体系
(産後の復職可否)
保育施設の昼食システム 予防接種のスケジュール確認
復職の時期、勤務内容 保育施設の長期休暇有無 大型家電の購入
(洗濯乾燥機・冷蔵庫・食洗機)
学会活動状況
(取得単位数・休会制度)
保護者参加を要する年中行事 居住環境の確認
(家具の固定、コンセントカバー、
家具のコーナーガードの設置)

1-3 実験・勤務をしながらの育児(徹底したタスク管理と省エネを)

私の場合は、妊娠期間中、パートナーは海外留学中でしたが、出産のタイミングで一時帰国できるように調整をしておきました。
家族のサポートとしては、私の両親は他府県で勤務医をしていたため、恒常的な協力を得ることは難しく、北海道在住の義父母に協力をお願いしました。
産後2ヶ月間(保育園入園まで)、私たちと京都で同居をしながら育児・家事を手伝ってもらいました。義父母のサポートを得ることで、短時間でも大学に行く時間を確保できたことはとてもありがたかったです。

個人的には、完全母乳への憧れがありましたが、結果的には混合を選択しました。
その理由として、やはり出産直後に思う通りに母乳が出ないことが1つ。そして、ミルクを併用した方が、出産後の自由度は格段に上がることが挙げられます。
ミルクを併用することで、家族のサポートが得られれば、自分の睡眠時間、労働時間を確保することが可能になります。

私の場合は、利用していた保育施設で搾乳を推奨されていたので、大学にいる間に搾乳、冷凍し、保育施設に届けていました。
ただ、衛生面的に搾乳道具や搾乳したものの管理にはかなり気を使うことに加え、搾乳に時間を要すことが難点です。

タスク管理の一例
タスク管理の一例

生後2ヶ月から保育施設を利用し、ほぼ同じタイミングで実験に加え、病院での検査に復帰しました。
義父母は北海道に戻り、パートナーは留学中だったため、完全にワンオペです。
育児をしながら働く人にとって、もっとも負担になることの1つは「時間に制約があること」です。
この「時間に追われる」ということは、思った以上に大きなストレスでした。

保育施設で預かってもらえる9時から18時の間に実験、臨床業務を終え、必ずお迎えに間に合うように大学を出るためには、徹底したタスク管理が必要でした。
まずは、何時から何時までは臨床業務、その後に実験、この実験の待ち時間に次の実験、など、時間単位でのタスク管理を行い、さらに何日後に実験動物の薬剤投与、処理を行うなど、日単位・月単位でのタスク管理をしておくことで、限られた時間内に効率的に業務を処理できるように努めました。
もちろん、その中で、子供の体調不良などで保育施設から呼び出しが入ることもあり、予定通りにはいかないことも多々ありました。

家事に関しては、できるだけ文明の力を活用することをお勧めします。
少し高くても乾燥機能付き洗濯機はかなり重宝しました。
食材宅配サービスもお勧めです。
保育施設からの帰り、子供を抱っこしながらお米や野菜などを買うのはなかなかの負担です。
日々の家事の中でもいかに省エネ、効率化を目指すかも子育てと仕事を両立する1つのポイントでしょう。

さて、次の大きな転機はやはり小学校入学です。
どの小学校に通うか(公立?私立?)、学童保育をどうするか、いわゆる小1の壁です。
両親ともに勤務を継続する場合、学童保育は必須条件になります。
当家では校内に学童保育併設の私立小学校を選択しました。
小学校には春、夏、冬と長期休みがあるため、長期休み期間の預け先としても学童保育は大切な場所となります。
細々とした確認ポイントは下記をご確認ください。

ここまで、経済的な負担に関しては、あまり触れてきませんでした。
医師である時点で、勤務をしながら子育てをする場合、経済的な不安は少ないことが多いかと思います。
一般的な認可保育を利用し、公立小学校に通うのであれば、経済的な負担は限られています。
一方で、幼稚園をインターナショナルスクールにした場合、小学校を私立小学校にした場合等、選択によっては経済的な負担が大きくなる場合があります。
特に、第2子、第3子と考えている方は注意が必要です。
兄弟がいる場合、保育施設、小学校、学童保育などは、やはり同じ施設に通う方が、親も子供も負担が軽減されます。
兄弟共にインターナショナルスクールや私立小学校に通う場合、教育費が2倍、3倍となることは念頭におく必要があります。

産後から小学校入学までに確認しておきたいポイント
仕事 プライベート
小学校は私立?公立?
私立・公立共通 私立小学校の場合
復職の時期、勤務内容 保護者参加を要する年中行事 入学・通学に必要な経費
学会活動状況 PTA活動の有無
居住地の学童保育
(移動方法、お迎え時間)
昼食システム
子供の体調不良時の
バックアップ
学童保育の長期休暇有無
小学校長期休暇中の
学童保育での昼食システム
お受験準備
(附属幼稚園や入塾が必要か)

1-4 子育てに終わりはない(子供の成長に応じて問題も多様化)

「子供が成長すると共に子育ては楽になる一方か?」というとそうでは無いかもしれません。仮に、学童保育に移行するにあたり、お迎え時間が18時から19時に延長されたとします。
お迎え時間が1時間遅くなった分、勤務するにあたっては時間的余裕ができたと考えることができます。一方で、帰宅時間が1時間遅くなった分、そこから夕食の準備、食事、お風呂、就寝のこれまでのルーチンに加え、小学校になると宿題、翌日準備のサポートが必要になります。お迎え時間が遅くなることが、必ずしも良いことばかりでは無いと実感し、学童保育でも保育園に通っていた頃と同じ時間にお迎えに行くように修正しました。

子供の学年が上がるにつれて、子供と過ごせる時間がどんどん減っていくのを感じています。そんな中、子供に「〇〇ちゃんの家はお母さんがいつも家にいていいなぁ」と言われることも。。。子供との関わり方に悩む毎日です。

小学校入学以降に確認しておきたいポイント
プライベート
子どもの生活リズムに負担はないか
学校や家での様子はどうか
塾・習い事への送迎方法

2キャリアプランニング

ここからは、自分のキャリア形成を中心に提示していきたいと思います。キャリア形成において、実務的な部分(技術、知識、資格を含めたスキルアップ)に目がいきがちですが、実際は、職場における良好な人間関係があってこそ、スキルアップ可能な環境作りにつながるのだと思います。雇用される側(子育て女性医師)、雇用する側(上司)、一緒に働く側(同僚、コメディカル)、それぞれの立場でお互いがある程度許容できる着地点を模索する必要があるでしょう。

復職時の子育て女性医師の立場で悩むことは、日本医師会による「平成29年女性医師の勤務環境の現況に関する調査報告書」を参照すると

  1. 常勤勤務、主治医制への対応困難(急な欠勤がある)
  2. 夜の勤務・呼び出しへの対応が難しい(時間的制約がある)
  3. 知識・技術的な不安がある(不安を感じる)

といった項目が挙げられます。
また、日本医師会による平成26年男女共同参画についての男性医師の意識調査では男性医師の約6割が「職場での女性医師支援が不足している」と回答しています。一方で、実際に子育てをする女性医師と一緒に働く同僚の立場からは

  1. (ア)急な休みが多い
  2. (イ)働く時間が短い
  3. (ウ)働く時間が短いのに同じ給料は納得できない
  4. (エ)働いていないのにポストがあるのは納得できない

といったネガティブな意見が挙がることがあります。そういった雇用する側、雇用される側、一緒に働く側それぞれの要求を包括的に許容するシステムとして、リスキリング期間を前提にした時短雇用という考え方が出てきます。

2-1 リスキリングと勤務形態

まず、出産、子育てを経験することで、スキルダウンを含めた多少のディスアドバンテージは必ず生じると考えるべきでしょう。
復職後に、周囲の同期と比べて、自分の能力に劣等感を感じることがあるかもしれません。
もしくは、妊娠・出産を控え、同期と比較してスキルダウンするのではないかと不安に感じることもあるかもしれません。
現実的に、専門医取得等のタイミングが同期よりも遅れる可能性もあるかと思います。
このような知識、技術、資格の点でのスキルダウンに加え、出産前とは異なり、時間的・体力的な制約もこのディスアドバンテージに含まれるでしょう。
そして、女性医師本人だけでなく、上司や仕事を共有する同僚についても、出産・子育てをする女性医師に一連のディスアドバンテージが生じることを当然のものと受け入れてもらう必要があります。
女性医師を雇用する側としては、スタッフ全体にこのような受け入れを促していくことが重要です。

妊娠・出産から復職までの期間は人それぞれだと思います。
ただ、上記のようにスキルダウン(ディスアドバンテージ)があることを前提にした場合、復職時にリスキリングという考え方が出てきます。
私の場合は、大学院終了後に、「キャリア支援医」という立場で雇用されました。いわゆる時短雇用です。
給与としては、1/2〜1/3程度になりますが、1日5時間勤務、週20時間までという設定でした。
また、この「支援枠」は通常ポストとは異なるため、他の人のポスト数も減らないという利点もあります。
加えて、私の職場では、「小学校以下の子供を持つ母親は病棟・当直・オンコール免除」という設定になっています(この設定のメリット・デメリットについては後で触れます)。

この「支援枠+当職場の設定」では、先ほど提示した女性医師の悩み①②をある程度カバーしたうえで、「給与は少ない」ことで同僚側の不満である(ウ)が代償されます。
加えて、(エ)のポストの競合による不満にも無関係です。
そして、1人分の働きを求められるよりも、+αの働きをすると考えることで、リスキリングを目的とした働き方が可能となります。
ただし、経済的な不安がさほどないことが前提となります。

このリスキリング期間をどう活用するかは人それぞれかもしれません。
私の場合には、勤務から離れている期間が2ヶ月程度と比較的短かったため、実務的な臨床知識、スキルのディスアドバンテージを取り戻すというよりは、時間的な制約(ディスアドバンテージ)の中で、いかに効率的に育児と仕事を両立するかのお試し期間といった活用をしていました。
お試し期間と捉えることで、精神的な負担はかなり軽減されたように思います。

リスキリング、時短雇用という枠の設定・利用を最大限に活用することで、出産後の復職支援につながります。
また、同じような状況の女性医師が複数人いる場合には、1人で1人分の仕事をしなければいけないという考え方よりも、2人もしくは3人で1人分の仕事をするぐらいの気構えで良いのではないでしょうか。
誰かが子供の急な体調不良で休まなければいけない時には、他の女性医師が代診をする。
代診してもらった場合は、どこかで代診のお返しをするなどの助け合いで良いように思います。

そして、大切なのは、雇用する側の情報開示です。
女性医師の「雇用制度」「雇用条件」をある程度具体的に他のスタッフにも開示し、受け入れてもらうよう促していくことが、お互いの不満の解消につながります。

キャリア支援医時の勤務例
キャリア支援医時の勤務例

2-2 多様性への寛容 〜情報公開と共有を〜

みなさんは自分の時間を自分以外の人のためにどれほど割いているでしょうか?
色々な解釈があるかと思いますが、自分の時間は自分のためだけに使っている人も多くいるでしょう。
一方で、「ヤングケアラー」や「老老介護」の言葉に代表されるように、自身が望む、望まないに関わらず、家族のために自分の時間を割かなくてはいけない事情がある人も多くいるでしょう。
多くの女性は、出産以降、自身の子供のために使う時間が増えることになります。
その結果、仕事面において制約が生じるのは至極当然のことでしょう。

すると、前節で触れた「小学校以下の子供を持つ母親は病棟・当直・オンコール免除」も当然の権利でしょうか?
この考え方に賛同する方、違和感を感じる方、反発される方、時代や立場によっても様々かと思います。
私の職場では、子育て中の女性医師が少なかった当時は、上記「免除」の考え方に賛同する人が多かったものの、子育て中の女性医師が増えてくるに伴い、また時代と共に様々な意見が出てきました。

具体的には、「子育てをしている女性医師だけではなく、男性医師も業務を免除されるべきではないか」といった意見があります。
平成26年に行われた日本医師会の調査では、男性医師のパートナーが専業主婦である割合は60%程度、パートナーが女性医師である割合は15%程度です。
一方、女性医師のパートナーが男性医師である割合は70%以上と報告されています。
このデータに基づくと、男性医師と比べ子育て中の女性医師が業務において配慮されるのは当然のことかもしれません。

しかしながら、医師国家試験合格者中、女性の割合は増加傾向です。
(厚生労働省の報告では、40代医師のうち女性の割合は20%程度であるのに対し、29歳以下の女性医師の割合は35%)
すると、男性医師のパートナーが女性医師である割合は増えてくることが予想され、家庭によっては育児における男性医師の役割は増えると共に、上記意見が挙がるのも当然の流れでしょう。

家庭環境は人によって様々です。
自身もパートナーも医師なのかだけでなく、子供が何人いるのか、両親の協力は得られるのか、子供のキャラクターによっても負担は大きく異なります。
子育てだけでなく、介護、あるいは自身の病気や怪我によって仕事の制限が必要になる人もいるでしょう。

一方で、このような個々の事情は他者にとって知る由もありません。
前項最後に記したとおり、雇用する側は「雇用制度」「雇用条件」等、必要な情報を共有することが大切ですが、このような個々の事情を共有することとは異なります。

「個々の事情、多様性がある以上、全てを平等にすることは難しい」という概念の共有化を図り、その結果、互いに寛容になれる職場環境を構築していくことが重要だと考えます。
そして、単一の制度が恒久的に受け入れられることは難しく、環境や時代によってその都度ブラッシュアップしていくと同時に、柔軟な対応が必要ではないでしょうか。

2-3 キャリアプランの共有と更新(子供の成長と共に人生観にも変化が?!)

人によって「何を優先するか」「どのような人生を歩みたいか」は千差万別です。
「自分はこうしていきたい」と思っていることが、他の人にとっては「これだけはしたくない」になり得るのが不思議なところです。
これが子育てをしながら働く女性医師にとって、思いもよらぬ障壁になることがあります。

例えば、私は現時点でプランAが最善かつ、唯一の選択肢と考えています。
最善かつ、唯一だからこそ、「自分の上司(男性)である●●先生も、私にとってはプランAが最善だと考えてくれているに違いない」と考えます。
一方で、男性医師である●●先生は、「以前に働いていた他の女性医師はプランBで上手くいったので、今回も私にとってはプランBが最善だろう」と考えています。

お互いが、それぞれプランA、プランBが最善だと思い込んでいる場合、お互いにとって当たり前の考えはわざわざ伝える必要がないと思っていることがあります。
そのすれ違いが時として、お互いに「なぜ自分の思う通りに動いてくれないのだろうか?」となり得ます。

子育てをしながら働く女性医師と上司との間には、このようなコミュニケーション不足に伴うトラブルがつきものです。
女性医師側は、自分が「何を優先したいか」「どういった働き方をしたいか」を明確にするだけでなく、自分の希望、考え方を「上司と共有する」ことが大事だと思います。

問題がややこしくなるのは、「プランAが最善!」と思っていた私が、タイミングによっては「プランBの方がいいかも」と思うことがあるからです。
人が変われば、考え方に多様性が生まれるのと同様に、人生のタイミングが異なれば、一個人の中にも考え方に多様性が生まれることが往々にしてあります。

「今」の自分が「どう考えているか」を定期的に見直してみることも大切です。

最後に(子育ての時間は意外と短い?!)

自分のキャリアを積みながら子供を産み、育てる。本当に大変なことです。
なかなか思う通りにいかないこともたくさんあるかと思います。出産した当初は、「一体この辛い状況がいつまで続くのか?」と悩んだ時期もありました。ただ、子供との時間も決して無限ではありません。

子供が成長するに従い、子供と過ごせる時間はどんどん短くなっていきます。子育ても子供と過ごせるかけがえのない大切な時間であり、キャリアよりも優先される場合ももちろんあるでしょう。

みなさんが充実したキャリア形成と共に、充実した子育てができることを願っております。

CONTENTSicon_magnify