※この体験談は、執筆者の先生ご自身の思いや感情を、できる限りそのまま表現いただき、私たちもそれを尊重いたしております。表現、用語などは誤解のないように配慮いただいておりますが、お気づきの点がありましたらご意見いただければ幸いです。
第1子(長女)出産:卒後5年目
産後6ヶ月でフルタイム復帰(5〜6日勤務、当直5〜6回/月)
夫: 市中病院勤務(消化器外科) 卒後同じく5年目
サポート: 実母、院内保育
第一子出産後、育休からそのまま前職場を退職し、医局からの辞令により異動先での復帰。当時夫も消化器外科専攻医。しかも長時間手術、当直や夜間呼び出しも頻繁にある多忙な市中病院勤務で、家事育児を共有するのは厳しい状況でした。
そこで、復帰するにあたり、長女は地域の保育園には預けず、補助が出る職場の院内保育に月極でお願いすることにしました。土日祝、平日夜間保育も含めかなり手厚い保育があり、夜間娘に授乳をしながら当直業務をこなし、翌日も勤務終了まで預かってもらいながらフルタイムの勤務をすることができました。
また、長女の具合が悪いときや、緊急手術などで遅くなった時のお迎え、家事、看病はほぼ全て、市内在住の実母が買って出てくれました。多いときは週4〜5回、自宅のマンションに娘を連れて帰り、時には実家に子供を預かり、献身的にサポートしてくれました。
1年8ヶ月勤務した後(卒後7年目)、転居した向日市の自宅から近い市中病院に人事異動となりました。負担だった通勤が楽になった反面、長女は地域の保育園に転園となり、夜間保育が使えなくなったため、実母の負担が激増。ここでようやく夫と家事育児の分担について話し合い、子供の朝の送迎を夫が担当することに。これによりかなり負担が軽減されましたが、転勤して半年ほどで、第2子の妊娠が判明。20週で切迫流産と診断され、入院にはならないものの自宅療養となり、そのまま産休育休に突入。私は実家で半年間療養することになり、その間の送迎を含めた育児と私の療養の負担がまた実母に逆戻りに。多忙な夫は週末に実家にやってくる、という生活を第二子出産まで続けることになりました。
第二子(次女)出産:卒後9年目
産後6ヶ月でフルタイム復帰(半月だけ時短勤務後、当直(宅直)5-6回/月、オンコール1-2回/月)
サポート: シッター+家事代行2回/週、実家2-3回/週、時々夫
第二子出産後、考えました。このまま実母の負担を増やすのは気が引ける。もっと夫にも育児に参加して欲しいが、子供が2人になったことでさらにハードルがあがり、家庭が回らないのは明らかだったので、復帰と同時に家事代行+シッターの導入を決めました。
担当になった方は、保育士の経験もある大ベテラン。週2回の子供2人のお迎えから離乳食を含めた夕食の準備、片付けまで引き受けてくれ、なんでもっと早く取り入れなかったのだろうと後悔したくらいです。シッターさんがいない日や、休日勤務のときのみ2-3回/週ほど実家にサポートをお願いしました。この体制で1年ほどフルタイム勤務を維持していました。
私はこの頃からサブスペシャリティに興味が湧き、仕事は忙しくも楽しく、学会活動などにも一層注力するようになりました。元々器用なタイプではないので、何か一つに没頭すると他の全てが疎かになり、私自身も家事育児は母やシッターさんに任せて最低限しかしていませんでしたが、それで十分と考えていました。同じ時期、夫は立場上中堅になって仕事量も落ち着いてきたこともあり、以前よりは家事に参加してくれるようにはなっていましたが、まだワンオペは厳しい状況でした。私が当直などで不在の間、夫は頼りにせず早朝に私の実家に預けにいくか、実母にきてもらっていました。
当時、私の方が当直回数が多く多忙な中、家庭への配慮はできず、自分に比べて家事スキルの低い夫に横柄な態度をとっていたように思います。
ある日、夫が帰宅後突然爆発。私も今までの不満を全てぶちまけ、結婚以来の大喧嘩。夫は私の仕事の仕方に理解をしようと努力はしてくれていたようですが、基本的には、もう少し家庭に目を向けて仕事をセーブしてほしいという意見でした。しかし、私は、物理的に家事育児はうまく回っている上、自分のキャリアはこれからが頑張りどころと捉えており、家庭の理由によるキャリアチェンジは到底受け入れられませんでした。この一件以降、家庭の雰囲気は史上最悪。今だから言えますが、一時期離婚の話もしていました。
家庭がこの状況だと、仕事にも集中できなくなり、精神的にも辛い時期でした。そんな中、支えになったのは、プライベートでもよく話をしていた職場の女性の上司。2人の子育てを終えフルタイム連続勤務17年目更新中の大先輩。思い切ってありのままを伝え、どういう選択をすべきか相談したのです。彼女の答えは、”みんなが幸せになる選択肢を考えて”でした。
確かに、これは全く私が望んだ状況ではありません。キャリアを求める代わりに不幸になる人がいるのかも?何のために仕事をしているのか?
そんな中、夫に良性疾患が見つかり、入院、手術をすることに。私も短期間有給をもらい対応しました。疾患との因果関係はないとはいえ、気落ちしている姿を見て夫にも気苦労があったのかな、と感じました。この時、根本的に働き方を変える決断をしました。
程なく部長に相談。当直回数を減らす、時短にする、非常勤扱いにする、などの変更は病院の体制上難しいことがわかり、退職する意向をその場で伝えました。
卒後11年目〜13年目
現職: 週4勤務(日勤のみ) オンコール1回/月、夜診1回/隔週
夫: 市中病院勤務から卒後12年目で大学院生に
サポート: 実母、夫、家事代行1回/週
さて。退職は決まったが、次の勤務先はどうしよう。ひとまず当直なし、週4-5勤務まで、と今の自分のキャパシティに合わせた条件を決めました。
まず医局に相談したところ、週1〜2回の婦人科外来非常勤勤務の提案がありましたが、せめて当直なしでも分娩を担当させてくれる病院はないか、と一旦お断りした上、(ちょっと部長にも協力してもらい)現在の勤務先に就職をとりつけました。
医局の人事からは外れる形になりましたが、寛容な医局と、親身に進路相談に乗ってくれた当時の部長をはじめとする職場の方々には本当に感謝しかありません。
転職後ほどなく、夫の大学院進学が決まりました。基礎系の研究室で帰宅が遅く、夫の進学のタイミングに合わせて、勤務時間を削りました。さらに私の実家の徒歩圏内に転居。年も重ねてきた実母の負担を考慮したこと、長女が小学校にあがるタイミングだったこともあり、学習サポートや、習い事の送迎のハードルを下げたかったこと、などが理由です。夫も理解してくれました。
今は半日勤務を含めた4日/週の日勤、隔週1回の夜診と、月1回待機を担当しています。
今は私が夫のキャリアに合わせる形で完全に家庭に重心を移している状態です。不満がないと言えば嘘ですが、結果的に家庭は落ち着き、これまでにないほど仕事と家庭のバランスがとれているので、このタイミングでのキャリアチェンジの選択はよかったのかな、と徐々に割り切れるようになりました。
ただ、機会があれば、まだキャリア形成にも未練がありますので、勘が鈍らないよう臨床業務を続けていきたいと考えています。
実は2024年3月現在、第3子を出産し、育休中です。これは今の職場への転職がなければ絶対にありえない選択でした。第3子を希望した理由としては、家族計画を話し合った上での希望、子育てのフェーズに応じて柔軟に対応してくれそうな職場であること、3人育児を実践中の同僚が複数おられ、キャリアモデルが身近にあったこと、などがあります。
復帰後のキャリアプランはまだ考え中ですが、できれば段階的に産休直前のレベルまで勤務を復活させたいと考えています。また、せっかくの最後の育休なので、医業とは関係ないことにも挑戦したいなと企んでいます。
私のキャリアチェンジの背景には、私自身の問題以外にも、現状のシステムに問題があるのではと思います。
常勤、非常勤の線引きが厳しく、常勤を維持するためには、一般的な総合病院の産婦人科だと月5-6回は当直する必要があり、さらに当時、当直明けも夕方まで勤務することを求められたため(働き方改革でこの形態での勤務はどれぐらい減るのでしょうか)、子育て中の女医にとっては大きな負担になり、特に夫などパートナーが多忙で家事を分担しづらかったり、実家が遠方だったりすると破綻するケースも多いのではと感じました。
私の場合、当初、当直回数を減らしてもらうことを提案したのですが、他の医師の負担が増える割に、給料で差別化を図れないという理由で、今後の職場の人事のことも考えて退職するしか選択肢がないと感じました。
家庭によってもニーズは様々ですので、状況に応じて、勤務内容と報酬を相談できるフレックスさが勤務先にあればキャリアダウンを余儀なくされる医師が減るのではと思います。
また、どんな理由であっても仕事量を減らすことは、職場の理解と協力あってのことなので、なるべく勤務先の方々との関係をwin-winに近い形に近づける努力をするべきだと思います。ここまでしか働かなくていい、責任は取れません、ではなく、ここまでしか働けないから、日中の勤務を多めにこなす、夜診に積極的に入る、など、当直などを担当してくれている医師の負担にも配慮した姿勢は大事だと思います。
そして、最も大切なのは、パートナーとの意思疎通。一番身近な夫(私の場合は)も家庭の一員なのだから、最初からしっかり巻き込んで一緒に家庭を回してもらうべきです。
夫は今ではワンオペもこなすとても頼りになるパパです。私も彼の学業を全力で応援しています。
この文章が、誰かの何に役に立つかはわかりませんが、会ったことのない同士の方々、一緒に頑張りましょうという気持ちが伝われば幸いです。
- 参考文献など
- Voicy
アツの夫婦関係学ラジオ
学びの引き出しはるラジオ
- 書籍
- 専業主婦が就職するまでにやっておく8つのこと 薄井シンシア
ムカついてもやっぱり夫婦で生きていく 一田憲子
ライフシフト習慣術 尾石晴
「40歳の壁」をスルッと超える人生戦略 尾石晴